毎年10月下旬から11月上旬にかけて、
奈良国立博物館で開催される「正倉院展」。
正倉院展は非常に人気の高い展覧会で、
毎年、開催期間約2週間の間に、20万人以上もの人が訪れます。
そしてその中には、何度も訪れるファンも多いといいます。
正倉院展で展示される宝物は、毎年60点ほど。
正倉院の宝物は約9,000点もあるといいますから、
一生通い続けても、全てを見るのは難しいということになります。
約1,300年前の宝物が、現在まで守られ続けているなんて、本当に奇跡的なこと。
私たちの身の回りの物が、数年で劣化してしまうことを考えれば、
改めてすごさを感じます。
それでは、そんな宝物を長年保管し続けてきた正倉院について、
そして、正倉院展について、紹介していきたいと思います。
正倉院の歴史をわかりやすく簡単に!倉庫保管の理由やいつ建てられたなど!
小・中・高の、歴史の教科書に必ず載っている「正倉院」。
東大寺の北側にある、奈良時代に建てられた校倉造の高床式倉庫で、
奈良時代・平安時代の天平文化を象徴する、
多くの伝統工芸品を収蔵していた建物です。
平成9年には国宝に指定され、翌年平成10年には世界遺産に登録されました。
現在、正倉院自体は、内部の公開はなく、外構のみ一般公開されています。
正倉院とは、宝物を保管するところだったという認識だと思いますが、
そもそもは「正税を納める倉」=正倉院で、宝物だけでなく、
稲など穀物も納められていた倉庫でした。
さらに「正倉院」といえば、今は当たり前のように奈良の正倉院を指しますが、
かつては、東大寺だけでなく、他の大きなお寺にも、正倉がありました。
正倉が立ち並ぶ一角を正倉院というのですが、
長い歴史の中で奇跡的に生き残ったのが、東大寺正倉院の中の1棟だけで、
そのため、現在はこの1棟を「正倉院」と呼んでいるのです。
8世紀中頃、世の中は争いや疫病などにより不安定な時代にありました。
それを仏教の力で安定させようと考えた聖武天皇。
奈良に東大寺を建て、大仏を作ります。
大仏が完成し、大仏開眼会が行われた4年後、聖武天皇は亡くなりました。
その後、光明皇后は聖武天皇の四十九日に、聖武天皇が愛用していた品々を、
東大寺の大仏に奉献することにしました。
その品々を正倉院に収蔵したのが、正倉院宝庫の始まりです。
大仏開眼会で使われた品物や、平安時代中頃に正倉院に移された什器、
シルクロードを通じてやって来た世界の工芸品もなども加わって、
宝物は厳重に保管されつづけてきたのです。
明治8年、それまで東大寺が管理してきた正倉院が、内務省の管理となりました。
そして農商務省から宮内省、現在は宮内庁の所管となっています。
1953年に鉄筋コンクリート造の東宝庫、
1962年には鉄骨鉄筋コンクリート造の西宝庫が建設され、
長年、正倉院で保管されてきた宝物は、
現在、空調が完備された東宝庫・西宝庫に移されています。
東宝庫には、整理中、修復中や未修復の宝物などが、
西宝庫には、整理済みの宝物が収蔵されており、天皇による勅封で管理されています。
正倉院展や宝物展は毎年あるの?期間が短く展示品の数が少ないのはなぜ?
第1回正倉院展は、1946年10月に開催されました。
22日間で約15万人もの入館者があったそうです。
終戦直後の開催は、人々の心を癒やし、希望を与えました。
それから毎年欠かさず行われるようになった正倉院展。
只今の2020年ですと、開催は第72回となります。
鋭い人はここで、
「おや?!計算が合わないぞ?毎年やってたら今年は75回目になるはず!」
と思ったことでしょう。
答えは簡単。東京で行われたことが3回あったから、です。
正倉院展の開催前には、西宝庫で「開封の儀」が行われます。
「開封の儀」が行われた後、宝物の点検や防虫剤の交換、調査がされ、
そして点検された宝物の一部が、正倉院展で展示されるのです。
正倉院展が終了した後には、「閉封の儀」も行われます。
最初にもいいましたが、毎年展示されるのは約60点の品々で、
開催期間は約2週間(原則は17日間)となっています。
「なぜ、もっと多く展示出来ないの?」
「なぜ、もっと開催期間を長く出来ないの?」
正倉院展を毎年待ち望んでいる方の中には、そう思う人もいることでしょう。
それには、ちゃんとした理由があるのです。
開封の儀から閉封の儀までは、約2ヶ月弱。
この間に正倉院展が開催となります。
点検や荷造り、展示作業などを考慮し、また、古い文化財ですから、
光や温度、湿度の変化に、十分な注意を払う必要があります。
そういったことから、展示期間と展示できる数には、制限が必要になるというわけです。
正倉院展の宝物一覧!名品のすごさや展示品の選び方を2020年で解説!
約9,000点の宝物がある中から、正倉院展に展示される品々は、
宮内庁正倉院事務所によって選定されます。
一度展示された物は、その後10年は展示されないという慣習があり、
毎年、特定の分野に偏ることがないよう、
また、初公開の宝物が数点含まれるように展示されています。
そして、2020年、新型コロナによって異例の年となりました。
だからこそ、毎年正倉院展へ行かれる方も、例年とは違う見方ができることと思います。
新型コロナウイルスによるパンデミックが起きたように、
奈良時代も天然痘の大流行で、多くの命が失われました。
そんなときに、実際に使われた薬が展示されています。
コロナ禍にある私たちだからこそ、
疫病退散を願った当時の人たちに、思いを馳せることができるでしょう。
その他、美しい鏡やフェルトの敷物など、煌びやかで豪華な展示品は、
第1回正倉院展が、戦後の人々の心を癒やしたように、
コロナ禍で疲弊した私たちの心を癒やしてくれるはず。
それでは、注目の品々を一部紹介したいと思います。
五色龍歯(ごしきりゅうし)
光明皇后は、病人を救済するために施薬院を作ったり、
病人に薬を分け与えるために薬物を東大寺に献納しました。
その薬物の中の一つである「五色龍歯」。
五色龍歯はナウマン象の歯の化石で、削って粉末状して服用します。
鎮痛効果のある漢方薬として用いられました。
産地はインド産と推定されています。
疫病に立ち向かったことを伝える展示品の一つです。
金銅鈿荘大刀(こんどうでんかざりのたち)
金銅で装飾されており、金具の部分には青色の瑠璃が埋め込まれている太刀です。
聖武天皇が重要視していた仏の教えである「喜捨」。
「喜捨」とは、自らの大切にしている物を捨てて徳を積む、ということ。
金銅鈿荘大刀は、まさに喜捨された武器なのです。
世の中の平和を願う聖武天皇、数多くの武器や武具を喜捨したと言われています。
平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)
聖武天皇が愛用した鏡は20面あったそう。
今年はそのうちの一つが展示となりました。
鏡の背面が、貝殻や亀の甲羅などで装飾された白銅製の鏡で、
獅子やサイ、鳥などを小花文で囲んだ模様となっています。
それらの模様の間は、トルコ石の細片がちりばめられており、
青や緑の美しい輝きを放っています。
この美しい輝きを放つ鏡。
鎌倉時代には盗難に遭った物もあったそうです。
しかも、盗んだのは大和国葛上郡の僧と、東大寺の僧の2人組でした。
鏡8面の他、銅小壺1口と銅小仏3体を盗みだします。
そして、白銅の鏡を銀だと勘違いし、鏡を粉々にして売りにいったのです。
ところが、安い値段しかつかなかったことから、持ち帰って、
大仏殿のそばにある神社に隠し、結局2人とも捕らえられたということです。
僧が盗みを働いて、歴史に名を残すとは、なんとも恥ずかしい話ですね。
紫檀槽琵琶(したんのそうのびわ)
古代ペルシャに起源をもつとされる四絃琵琶。
正倉院には、5つの四弦琵琶があり、そのうち槽(胴の背面)に、
全く装飾がない作りの物が、今回展示される紫檀槽琵琶です。
シタン、コクタン、ツゲなどの材木が贅沢に使われています。
表面の撥受け(ばちうけ)には、皮革が貼られていて、そこには水鳥や山が描かれています。
油色の技法(彩絵の上から油を引く方法)が使われている注目の品。
琵琶は琴とは違って、ギターのように縦に持って演奏できますが、
それは、らくだの背中で演奏が出来るようにと考えられたから、
その形になったらしいですよ。
花氈(かせん)
フェルトの敷物。裏面には「東大寺」の印があります。
文様のパーツを配置し、その上からベースの羊毛を乗せ、
湿気や熱を加えながら圧力をかける方法で作られます。
この方法は、中央アジアに残る伝統的な技法と似ていることから、
シルクロードを通じて伝わった物だと考えられています。
非常に高い技術が必要であることから、中央アジアや中国には、
職人の集団がいたのではないか?といわれています。
元々、遊牧民の生活道具でした。
日本では、僧侶が法要の時に花氈を敷いて座ったそうです。
桑木木画碁局(くわのきもがくがのききょく)
囲碁の盤で、桑の木の木目を生かした盤面で、象牙で界線を施しています。
盤面の側面も、象牙の界線で分けてあり、草花や虫の文様が彫られています。
脚には紫檀が使われていて、金泥で文様が描かれるなど、
様々な装飾技法が凝らされている一品。
正倉院に伝わる3基の碁盤のうちの一つです。
碁石も2組保存されているそうです。
701年に定められた大宝律令で、僧尼に対し、すごろくやバクチは禁止するが、
囲碁はやってもよいという法律があったそうです。
展示品はもちろん聖武天皇の遺品ですが、
当時の囲碁を楽しむ人々の姿を、思い浮かべながらみてみたいですね。
まとめ
いかがでしたか?
正倉院展の、人を惹きつける魅力について、少しでも伝わったでしょうか?
幾度もの災害や戦火を、奇跡的に免れてきた正倉院の宝物の数々。
是非、あなたの目で確かめることをおすすめします。
来年の正倉院展、足を運んでみてくださいね。